百 敬    ( そんけい )           井深 大  (1908-1997)

 
人のやらないことだけに集中  −トランジスタを使ったポケットラジオの開発−
 「人のやってることはやるな。人のやらないことだけに集中しよう」というのが、私のポリシーでした。
 当時、トランジスタなんかに手を出すというのは、冒険も冒険、「そんなものをやったらとんでもない目にあうからやめなさい」という反対論者がほとんどだったんです。それでもやった。
 それは、「独創的なことをやる」なんて恰好のいいもんじゃない。いまに東芝とか三菱とか日本無線とか、戦前の通信機の大手が復旧していくのは目に見えていた。とにかく大手と競争になったらひとかたまりもない。よそのやってない所で、なんとか活路を見出そうとこちらも必死だったんです。
気合がはいらなければダメです  −一生懸命なものを持つことが大切です。−
 新しいカラー・テレビの技術として取り入れたクロマトロンは商品化に失敗し、経営をも圧迫した。近くではベータ方式の苦戦もあった。
 しかしそれも何とか乗り切れるパワーがあった。それは技術力であり、技術者の意気、気合だと思うんです。いくらいい技術があっても、気合がはいらなければダメです。
 それとリーダとして、「これだけは絶対やりとげるんだ」という一生懸命なものを持つことが大切です。そうすれば、心ある人は必ずついてきてくれる。自分にそういうものがなくて、人に「やれ、やれ」と言ってもダメなんです。